革ジャンとなった日
僕のバイト先の塾には、バイトの間で「革ジャン」と呼ばれる生徒がいる。
革ジャンと呼ばれるからには革ジャンを着ているのだが、別に彼がオギャァと生まれた時から革ジャンを着ていたわけではない。
革ジャンには革ジャンでない頃があり、なんでもない少年がある日突然革ジャンになったのだ。
そして、僕はその場面に立ち会った。
革ジャンがまだ少年kだった頃、少年kは静かに勉強はするし成績は上の中、いわゆる優等生タイプの中学生であった。
質問があっても、小さな途切れ途切れな言葉で聞いてくるシャイな子だった。
ところがあの日突然、黒に淡く光るピカピカな革ジャンを着て来たのだ。
悪い不良に捕まって悪に染まってしまったのか、はたまた宇宙人にさらわれて脳を弄られたのか。
できれば後者であってほしい。あんな純真だった子が荒れてしまうなんて考えたくない。
デリケートな話題そうで触れてはいけない感がありながらも、バイト民の視線を集めていた。
革ジャンのこの日の担当は僕の隣の同期のMだった。
Mはグイグイいく事に定評がある。
革ジャンが席に着くと直ぐにMが
M「うっわぁ、お洒落な革ジャンじゃん!どうしたの?」
と聞いた。
流石だ。デリケートなんてぶち壊していた。よくやった。
僕はパーテーション越しにその返答に耳を傾けた。
僕には彼が荒れてないことを確かめる義務がある。
革ジャン「あの…チャラく…なりたくて…」
よかった。いつもの口調だ。
だが全く良くない。チャラくなりたくての意味がわからない。
革ジャン「チャラい人は革ジャン着てるって読んだから…買いました……」
そんな本どこにあって誰が書いたのだ。
お陰でギャップ萌えが出来てしまった。
御前に行き褒め称え、崇め奉りたい。
M「へぇ〜、そうなんだ。いくらぐらいしたの?結構高くない?」
Mは基本声がでかい。
だが、気になるところを聞く。
革ジャン「3万円ちょっと…」
うっそだろ。中学生で3万ってかなりの額だぞ。
革ジャン「高くて他の服は揃えれませんでした…」
なんて可愛いんだ。
きっと全財産に等しい額を、意を決して払って、買ったのだろう。
タイムマシンがあれば買った現場に見に行きたい。
そんな革ジャンの決意の買い物に対して、賞賛を心の中で贈っていたら
M「えー、白のシャツと黒のパンツさえ買えば十分だよ!」
デリカシーがないのか!
革ジャンをこれ以上いじめるな。きっと、後から後悔もしただろうし、親にどんな買い物したんだとか怒られもしただろう。
だか、革ジャンは買ったのだ。己を変えるために!
その後革ジャンは特に何も喋らず、帰っていった。
それ以来、学校から帰って直ぐ塾に行き終わったら帰るだけなのに革ジャンは革ジャンを着てくるようになった。喋り方などは何も変わらない。
負けるな革ジャン。
君のチャラ道を歩むがいい!