少年の日の思い出
そろそろ笑い話にしても良い頃かと思う。
高校の卒業式、私は告白をした。
「〇〇が部室に彼女を連れ込んでいた!」
などという暴露でなく、
世間一般で言う告白だ。
高校の頃、私は浮いた話とかけ離れた生活をしていた。
テニス部に所属する傍ら、テニスコートの一角に穴を掘りビオトープを作ろうと土木班なるものを結成し、
雪が降れば朝イチで登校して、グラウンドに雪だるまを一人で作り、
梨の香りを空気砲で届けようと空気砲と芳香剤を睨めっこさせていた。
新年度のクラス分け当日で、みんなが新しいクラスにドギマギしている時に、ハンコを無くした事を宣言してクラスを飛び出し探しに行ったりもした。
ロマンチックの対極に位置し、ロマンチックの対義語こそが我だと思っていた。
それがどうだろうか。
3年の夏、8月頃か、気になる人ができた。
得意のポーカーフェイスで平静を保っていたが、9月ぐらいに友達Kにバレた。
Kは、この手の話では要注意人物だった。
共通の友人曰く、
「1を100にするに飽き足らず、0から1を作り出すやつだ。」
と言われていた。
火のないところに煙を立てるやつだ。
私の煙が広まるのに、ひと月もかからなかった。
秋にはクラスの男子ほぼ全員が認知していた。
受験を控え、部活も無くなった奴らには格好の餌だった。
やれ、告白しろ
ほら、告白しろ
と毎日のように言われた。
破廉恥な奴らめ。
すぐそう言う事に結びつけるから嫌である。
そも、私は今まで、電動ドリルや石のトンカチ、テニスラケットしか扱って来なかったのだ。今さら、恋愛なぞ柔らかく不定形なものを扱えるか。
センターが近づく頃、女子の一部にも広まっていた。
みな、勉強で精神やられたのか「告白しろ」とまだ言っていた。
私はといえば、少しでも仲良くなろうと必死に外堀を埋めていた。
偶然早く来た時に彼女が朝早くから学校にいること知って以来、常に朝活をするようになった。
雪が降れば、箒で絵を描き、
臭いドリアンジュースがあれば、話題のタネになるだろうと、教室の一角に設置した。
今思えば、非常に気持ち悪い行動である。
時は流れ、私は外堀を埋め続け、今の状態がわからなくなっていた。
果たして今、外堀に投げ込んだのは本当に土なのか、実は空気ではないのか。
外堀に土を入れすぎ塀になっているのではないか。
私にはわからない。
わからないから、何もできず、ただ今まで通り過ごすだけだった。
そのうちに、二次試験が終わり、卒業式を迎えた。
式は粛々と終わり、
私は他の事情で中庭にいた。
上から声が聞こえた。
「〇〇さん帰っちまうぞ!」
渡り廊下から友達が呼んでいた。
大声で言うんじゃない。
せっかく今日まで秘め続けて来たと言うのに台無しにするつもりか。
このまま、秘めて、揺りかごから墓場まで持っていく予定なのだぞ。
閻魔様にだって見せるものか。
とりあえず、叫ぶ友人を止める為にも私は教室に戻った。
教室の入り口まで来た時、あの人を除きクラスの皆が廊下に出ていた。
友人が私に喝を入れた。
待ってくれ、心の準備ができていない。
さっきまでテニスコートにタイムカプセルをこっそり埋めようか考えていたのに、急すぎる。
教室の中をしとと見る。
あの人はロッカーを見つめていた。
意味がわからない。だが、素敵だ。
場は整い、機は熟したかのように思えた。
土いじりと化していた外堀埋めから、
突然に私は本丸に飛ばされた。
私は突撃した。
何を言ったかはよく覚えていない。
外堀を埋めながら色々思っていたはずだが、殆ど飛んでいた。
その後どうだったかは話すまでもない。
成功してイチャイチャした話は犬も食わぬ、失敗した話は野次馬に食われる。
ヒヒーン。